むかし、むかし、あるところで、こんなモノづくりをしていました。
ウィンターシーズンの定番アイテムの一つである「ホイールブレード」は、車いすの前輪などに簡単に着脱できるキャスタースキーです。
このホイールブレードをイフで取り扱いを始める、ずっとずっと昔、とても思い出深い “モノづくり” をした記憶が、今でも鮮明に蘇ってきます。
それは、今から遡ること18年ほど前の出来事でした・・・・・・・・・
ある夏の日に、北海道帯広三条高校ラグビー部OB会 の大塚先輩から「知り合いが、歩行器のことで困っているので、相談に乗ってくれないか?」という依頼(指令)をいただきました。
昭和世代の体育会系にとって、先輩の言うことは絶対なので、いの一番にその方のお宅を訪問して、詳しい話しをお聞きしたところ・・・
外出の時に常用している歩行器(シルバーカー)が、夏は快適だが、冬になると車輪が雪に埋まってしまって上手く使えないとのことで、これ(シルバーカー)を冬でも使えるようにしてほしいとのことでした・・・
当時は “なんでも屋” を自負していたイフでしたが、さすがに雪道を走破できる歩行器やシルバーカーは作ったことはありません(汗)
冬までは、まだ数ヶ月あるので、急ぎませんというお言葉をいただいたものの・・・
何を・どうして・どうしょう… と、思案に暮れる日々を過ごしているうちに、季節は秋に変わり、あっという間に冬将軍が到来してしまいました(汗)
あたり一面が雪景色に覆われた年の瀬に(慌てて)、シルバカーをお預かりして改造作業に着手しました!
ここに至るまでの間、ただ手をこまねいて待っていたわけではありません(笑)
最初は、イフにあった歩行器の前輪に市販のミニスキー 1 を(無理矢理)括り付けて試してみましたが、直進時は安定する長いスキー板がひとたび横を向いてしまうと身動きがとれなくなり、それを防ぐために前輪キャスターの旋回をロックすると、今度は曲がることができなくなってしまいNGでした。
また、必要に応じて簡単に着脱できる仕組みも模索していました。
スキービンディング 1 は、スキーブーツの固定を前提に作られているため、ゴツすぎるのと前後に長すぎてNG。
コンパクトに使えそうに思えた自転車のビンディングペダル 2 も、力にかかり方によって外れてしまうことや、加工(流用)の難易度が高く、部品価格と合わせると高額になることからNGとなりました。
思考が堂々巡りをした結果・・・潔く、着脱するのを諦めることに決定(笑)
とは言え、日常生活では屋外移動の全てが積雪路面というわけではありません。
こと十勝帯広では、札幌や旭川のような圧雪地域ではないため、真冬でも舗装路面が出ていることも多くあります。また、出かけた先のお店の中に雪はありません。
それ故に、シルバーカーの車輪にスキーが付いたままの状態では不都合でしかないのです(汗)
でも・・・安心してください! (履いたままでも大丈夫!)
イフが導き出した答えは[スキー板に穴をあける]という前代未聞のチャレンジでした。
アルミニウムの大きな板材からスキー板になる部分を切り出し、前後を緩やかに曲げ、シルバーカーのダブル車輪が配置される位置に溝状の穴を設けました。
そのスキー板が適切な高さでしっかり固定できるようにするためのアタッチメントも製作。
試作したパーツをシルバーカーの前輪に仮組みしながら各部を微調整。
ダブルホイールにジャストフィットした特注のスキーは、板に設けた2つの穴から車輪の先端が少しだけ突き出る状態となりました。
この ”突き出た車輪” が雪のない乾燥路面では地面に接地する(スキー板が少し浮いた状態となる)ことで、スキーを装着したままで、雪のない場所にも行けるのです!
特注スキーを仮取付けしたシルバーカーを実際に積雪路面で試走しながら、前後の曲げやスキー板の高さなどを微調整を繰り返しました。
すべての確認や調整を終えて、仕上げ作業を行います。
じゃーん!完成です♪
深夜に完成した特注スキーを装着したシルバーカーを持参して、翌朝一番でご自宅へ!
さっそく試走してもらい、雪の上でもスイスイ動けるようになったシルバーカーを操る、お客様の素敵な笑顔を拝見することができました♪
”ものづくり” は試行錯誤も多く、産みの苦しみはありますが・・・ それが完成して、お客様に喜んでいただけた時の嬉しさは職人冥利に尽きるのです♪
それから暫く経ったある日、株式会社特殊衣料様で「車椅子前輪スキー:キャスタースキー」という製品を販売していることを知りました。
イフでトンテンカンと製作した愚作とは違い、製品化されたキャスタースキーは素晴らしいものでしたが、自分たちのアイディアが大正解だったことに満足です(笑)
その後、オットーボック・ジャパンが「ホイールブレード」という製品を日本で販売を開始することを知った時は、間髪入れずに迷わず5セット注文しました(笑)
当時イフが試行錯誤していたことが見事に解消されていた「ホイールブレード」は、その経験があったからこそ、本当にお薦めできる製品と考えていて、今ではチェアウォーカーの冬の必需品となっています。。。
もちろん、ダブルホイールのシルバーカーにもバッチリ適合しているので、「ホイールブレード」を手に入れた今は、本事例のような特注スキーを作ることはなくなりました。
イフのオンラインショップに掲載している商品の中には、ストーリーは異なっていても、同じような経緯があったものが多数あります。
来年もまた、一つひとつの商品について、あなたのお役に立てる情報を丁寧に発信していこうと思っていますので、乞うご期待!