車いすで一定の高さ以上の段差を超えることは容易ではありません。 そのような場所を車いすで往来するためには、スロープの設置が有効的です。
高齢化社会を迎えている日本では、スロープをはじめとするバリアフリー化が徐々に進み、段差が少しずつ取り除かれています。
いろいろな人が利用する公共施設ではもちろんのこと、店舗や飲食店などの商業施設や企業、自宅でもバリアフリー化が必要不可欠になっているのです。
とはいえ、全ての場所に工事が伴うスロープを設置するというのは理想的ですが、様々な制約があるため現実的ではありません(汗)
そこで活躍するのが、持ち運びが可能な段差解消スロープ(ポータブルスロープ)を導入するという方法です。
本ページでは、段差解消スロープ(ポータブルスロープ)の導入を検討されている方が、製品選びをする際の参考になるような情報を簡単にディープにまとめさせていただきました♪
スロープの勾配の表現方法って?
勾配(こうばい)とは水平面に対する傾きの度合いをいう。地形や人工的な構造物、建造物の傾き(傾斜)について言うことが多い。 - 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
皆さまは、勾配(こうばい)と聞いて、どのような数字をイメージしますか?
「1/12」や「1/15」といった分数ですか?
それとも、「8度」のような角度ですか?
はたまた、「10%」のようなパーセントでしょうか?
これらはすべて、勾配の傾斜を表す正しい表現方法なのですが、その意味や計算方法はご存知でしょうか?
イフでも都度、スロープのご相談を受けて、お客さまや関係者と打ち合わせをするのですが、建築関係の方は分数表現が多く、土木関係の方はパーセント、工業技術系の方は角度表現をされているような気がしています。
お互いの表現方法が違っていても、大凡の雰囲気は理解し合えるのですが・・・
例えば、バリアフリー法の「建築物移動等円滑化誘導基準」(障害者や高齢者等移動が困難な方が円滑に移動できるような建物の基準を定めるもの) では、勾配について屋内は「1/12」、屋外は「1/15」が基準とされていますが、1/12の勾配は4.8度で、8.3%ということを即答できる方は少ないと思います。
かく言うわたしも、どこまでちゃんと理解しているかは微妙なので(笑)、段差解消スロープ(ポータブルスロープ)の情報をお伝えするにあたり、最初に3つの表記をざっくり比較した表を作成してみました♪
よく使われる数値のセルは黄色でマーキングしてありますので、それぞれの微妙な違いも比較しながらご参照ください。
分数表記 | 角度表記 | パーセント表記 |
---|---|---|
1/3.7 | 15.0° | 26.8 % |
1/4 | 14.0° | 25.0 % |
1/4.7 | 12.0° | 21.3 % |
1/6 | 9.5° | 16.7 % |
1/7.1 | 8.0° | 14.0 % |
1/8 | 7.1° | 12.5 % |
1/10 | 5.7° | 10.0 % |
1/11.4 | 5.0° | 8.8 % |
1/12 | 4.8° | 8.3 % |
1/15 | 3.8° | 6.7 % |
勾配を表す定番である分数表記は「高さ/水平距離」を示したもので、高さ1mを10mかけて昇り降りする勾配は1/10のように表現されます。 | 角度表記はその名のとおり勾配の角度を度数で表示したもので、高校数学のメインの1つである三角関数のtan(タンジェント)になります。 | 山道や急な坂道で見かけるこの道路標識は、道路の登り勾配を示すもので、10%の表示は、10m進んだら1m高さが増す傾斜を表しています。 |
スロープの勾配と車いす
車いすでスロープを上り下りする場合に最適な勾配とはどのくらいでしょうか?
勾配の表現方法で少し触れたバリアフリー法の「建築物移動等円滑化誘導基準」で推奨されている勾配(屋内は「1/12」、屋外は「1/15」)まで緩やかであれば、誰もが安楽に上り下りできるスロープになりますが、施工を伴わない段差解消スロープ(ポータブルスロープ)でその勾配を実現できるのは、段差の高さがかなり低い場合に限られます。
そこで・・・車いすの車種や、車いす利用者の体重、介助する方の体力や経験値などの諸条件により、使用できる勾配の許容値は大きく変わりますが、一つの目安として、4つの異なる勾配で、どのような方が使用できるのか?をイフの経験値に基づいて大雑把に表現してみましたのでご参照ください。
多くの方が利用可能(理想的な勾配)
1/12勾配 ・ 傾斜角度5度
水平12に対して高さが1上がる(下がる)勾配で、傾斜角度は5度以下です。介助者が非力な高齢者や女性の方でも車いすを楽に押して上がることができます。
バリアフリー法の基準とされている勾配が1/12であり、 公共の施設や病院などのスロープの多くはこの勾配におさまっています。
元気な車いすの方であれば楽に自走が可能な勾配ですが、健常者が車いすの乗って上り下りしてみると、実は見た目以上になかなか手強い勾配なのです。
一般的な介助者がサポート(よくある勾配)
1/8勾配 ・ 傾斜角度8度
街でよく見かける、微妙な感じのスロープが1/8程度の勾配です。
それなりに体力や経験のある介助者がサポートする場合や、電動車いすなどでは普通に上り下りすることができますが、距離が長い場合や、自走での使用はかなり困難です。
家庭の玄関の上がり框が、だいたい20〜25cmくらいで、そこに1.4〜1.8Mくらいのポータブルスロープを設置すると1/8程度の勾配になりますが、使える方と使えない方が分かれるギリギリの勾配なのです。
力強い介助者のサポートが必要(やむを得ない勾配)/h3>
1/6勾配 ・ 傾斜角度10度
傾斜角度が10度もあると自走で上ることは困難で、電動車いすでも限界の登坂角度となります。
介助者にもそれなりの力が必要な急勾配となりますが、工事を伴わない段差解消スロープ(ポータブルスロープ)で使用する多くのケースがこれに該当していて、事実、インターネットでスロープ情報を掲載しているサイトの多くが(スロープメーカーの資料の受け売り?)10度が基本的な勾配などと書かれています。
危険な傾斜(かなり急な勾配)
1/4勾配 ・ 傾斜角度14度
1/4というのは、車いすが安全に上り下りするにはキツすぎます。
元気な車いす利用者と介助者が二人で息を合わせて、スロープの手前から「ウリャ!」と勢いをつけて押し上げれば、あわよくばスロープの上にたどり着くという感じで、下りはジェットコースターなみです。
スキー場では、10~14度のコースを「緩斜面」と呼び、15~20度は「中斜面」で、滑っていて最も気持ちよく感じる丁度いい斜度と言われるくらいの勾配なのです(笑)
※この車椅子のイラストは、イラストAC の「potikun」さんのイラスト素材を活用させていただきました。
スロープの長さと勾配について
実際に段差解消スロープ(ポータブルスロープ)の導入を検討される際に、設置する場所(段差)の状況や、希望する勾配などを考慮しながら、どの程度の長さのスロープを設置する必要があるのか?という目安を知っていただくため、「解消したい段差と必要なスロープの長さ(勾配タイプ別)」「スロープの長さと対応できる段差(勾配タイプ別)」「傾斜角度表」という3つの視点から見た表を作成しましたのでご参照ください。
解消したい段差と必要なスロープの長さ(勾配タイプ別)
段差高さ | 1/12勾配 | 1/8勾配 | 1/6勾配 | 1/4勾配 |
---|---|---|---|---|
傾斜角5度 | 傾斜角8度 | 傾斜角10度 | 傾斜角14度 | |
5cm | 60cm | 35cm | 30cm | 20cm |
10cm | 115cm | 70cm | 60cm | 40cm |
15cm | 170cm | 110cm | 90cm | 60cm |
20cm | 230cm | 140cm | 120cm | 80cm |
25cm | 290cm | 180cm | 140cm | 100cm |
30cm | 340cm | 215cm | 170cm | 125cm |
40cm | 460cm | 290cm | 230cm | 165cm |
50cm | 570cm | 360cm | 290cm | 205cm |
60cm | 690cm | 430cm | 350cm | 250cm |
70cm | 800cm | 500cm | 400cm | 290cm |
80cm | 920cm | 570cm | 460cm | 330cm |
もっと細かく調べたい方は、カシオ様の高精度計算サイトの「角度と高さから底辺と斜辺を計算 」で計算してみてください♪
スロープの長さと対応できる段差(勾配タイプ別)
スローブ長 | 1/12勾配 | 1/8勾配 | 1/6勾配 | 1/4勾配 |
---|---|---|---|---|
傾斜角5度 | 傾斜角8度 | 傾斜角10度 | 傾斜角14度 | |
40cm | 4cm | 6cm | 7cm | 9cm |
70cm | 6cm | 9cm | 12cm | 17cm |
90cm | 8cm | 12cm | 16cm | 21cm |
120cm | 10cm | 16cm | 21cm | 29cm |
140cm | 12cm | 19cm | 24cm | 34cm |
160cm | 14cm | 22cm | 28cm | 38cm |
180cm | 16cm | 25cm | 31cm | 43cm |
200cm | 17cm | 27cm | 35cm | 48cm |
250cm | 22cm | 35cm | 43cm | 60cm |
300cm | 26cm | 41cm | 52cm | 72cm |
350cm | 30cm | 48cm | 60cm | 84cm |
もっと細かく調べたい方は、カシオ様の高精度計算サイトの「角度と斜辺から底辺と高さを計算 」で計算してみてください♪
傾斜角度表
スロープ長 | 段差 5cm |
段差 10cm |
段差 15cm |
段差 20cm |
段差 25cm |
段差 30cm |
段差 40cm |
段差 50cm |
段差 60cm |
段差 70cm |
段差 80cm |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
40cm | 7° | 14° | |||||||||
70cm | 4° | 8° | 12° | 17° | |||||||
90cm | 3° | 6° | 10° | 13° | 16° | 20° | |||||
120cm | 2° | 5° | 7° | 10° | 12° | 15° | 20° | ||||
140cm | 2° | 4° | 6° | 8° | 10° | 12° | 17° | 21° | |||
160cm | 4° | 6° | 7° | 9° | 11° | 15° | 18° | ||||
180cm | 3° | 5° | 6° | 8° | 10° | 13° | 16° | 20° | |||
200cm | 4° | 6° | 7° | 9° | 12° | 15° | 18° | 20° | |||
250cm | 3° | 5° | 6° | 7° | 9° | 12° | 14° | 16° | 19° | ||
300cm | 4° | 5° | 6° | 8° | 10° | 12° | 14° | 16° | |||
350cm | 3° | 4° | 5° | 7° | 8° | 10° | 12° | 13° |
もっと細かく調べたい方は、カシオ様の高精度計算サイトの「高さと斜辺から角度と底辺を計算 」で計算してみてください♪
ポータブルスロープのタイプ
ポータブルスロープのタイプは大きく分けて「一枚板タイプ」と「レールタイプ」があります。
基本的には、スロープとしての機能面で圧倒的に優位な「一枚板タイプ」をお薦めしていますが、使用する方の状況や使用方法、設置する場所の都合などに合わせて「レールタイプ」を提案させていただくこともあります。
それぞれに一長一短がありますので、「一枚板タイプ」と「レールタイプ」の簡単な特徴説明と、少々極端な○×表現で比較した表を作りましたので、選定の参考にしていただければ幸いです。
一枚板タイプ |
一枚板タイプのスロープは安定感があり、ゆとりを持って走行できます。介助の方は、スロープの走行面に一緒に乗ることができるので、安楽に押す事ができます。電動三輪車・四輪車にも対応し、台車・ワゴンなど幅広い用途に使うことができます。
レールタイプ |
左右に分かれるセパレートタイプのスロープ(レールタイプ)は、持ち運びがしやすいのが特徴です。狭い場所への設置が可能で、伸縮できるタイプの製品もあり、価格面もリーズナブルな製品が多くラインナップされています。
比較表 | ||
一枚板タイプ | レールタイプ | |
---|---|---|
走行中の安定感 | ◯ | ✕ |
介助のしやすさ | ◯ | ✕ |
スロープの軽さ | ◯ ※1 | ◯ ※2 |
設置のしやすさ | ◯ ※3 | ✕ ※4 |
折りたたみ | ◯ ※5 | ◯ ※6 |
持ち運び易さ(携帯性) | ✕ ※6 | ◯ |
乗用車への積載 | ✕ | ◯ |
適合する車いすの仕様 | ◯ | ✕ ※7 |
車いす以外への適応力 | ◯ | ✕ |
注意:この比較表は、一般的な情報にイフの所見を加えて作成した表のため、実際とは異なる場合があります
注意:意図的に、△や◎は付けずに、◯と✕で極端に表現してあります
注意:製造メーカーや製品の仕様によっては、比較表とは異なる場合があります
※1:メーカーや製品によって軽量で丈夫な素材で作られた製品がラインナップされています
※2:セパレートのため、セットではなく単体時に軽量という考え方になります
※3:車いすの幅などに合わせる必要がないため、通常は置くだけで使用できます
※4:車いすのタイヤの幅に合わせて、左右のスロープを設置する必要があります
※5:長さは変わらず、幅が2〜4つに折りたためる製品が主流です
※6:長さが伸縮できる製品などがあります
※7:内側になるエッジ部分が、車いすの足台と干渉する場合があります
ポータブルスロープの人気シリーズ
各メーカー様から、様々なタイプのポータブルスロープがラインナップされていますので、イフのホームページでも順次ご紹介させていただこうと頑張っていますが・・・ 取り急ぎ、下の製品紹介から各メーカー様のウェブサイトへリンク(別ページで開きます)させていただきましたので、それぞれのメーカーサイトにて商品の詳細をご覧ください。
安心・快適な移動のために
最後までご覧いただきありがとうございました! かなりボリュームのある内容に加えて、私の表現力の乏しさで、理解し難い部分も多々あったかもしれませんが・・・「車いす用 段差解消スロープ(ポータブルスロープ)の選び方」と題して、これまでずっとまとめたかった内容を書かせていただきました。
ごっちゃごちゃ書いたあとですが・・・頭で理解する基礎知識はとても大切ですが、実際には人が相手であることから、使う方としっかり話しを重ねたり、あれこれ試してみるということがとても重要と考えています。
建築業の方であれば、造作したスロープを・・・
福祉用具関連の方であれば、納品したスロープを・・・
相談支援専門員の方であれば、提案したスロープを・・・
実際に、ご自身で車いすに乗って、是非とも確かめていただきたいと思います。
頭で考える数字と、実際というのは、なかなか一致しないものなので、そういった経験が必ず今後につながると思います。
また、車いす介助マニュアルなどでは、○○度の勾配を下るときは前向き(後ろ向き)云々という表現がありますが、これも人や車いすのタイプによって全く見解が異なる場合も多々ありますので、実際の場では、相手(車いすの方)に「この坂だと、どっち向きに降りますか?」と聞いてからサポートすることが大切です。
最後になりますが、スロープは車いすの方にとってはバリアフリーアイテムとなりますが、それすなわち全ての方にとってのバリアフリーではなく、障害の内容や設置場所、設置方法によっては、逆にスロープ(勾配)がバリアーになるという場合もありますので、(ここでは詳しくは書きませんが)ご注意ください。