ホンダ・ステップワゴンに車いす昇降リフト装置を取付した記事はご覧いただけましたでしょうか?
2005年にイフで改造させていただき、その後6年近くの間、このステップワゴン+車いすリフト装置は、S様家族と共に毎日を過ごしていたのですが・・・ある日、不慮の事故によりクルマが動かなくなってしまいました・・・
S様は、新たにステップワゴンのような車種を購入して、リフト装置を移設すること検討したのですが、ちょうどその頃、トヨタからスロープ仕様車で初の4WD車が発売になったことを受け、かなり悩んだ結果、ステップワゴンを廃車にすることを決意したのです(泣)
ナンバーが外れ(車両が抹消登録され)、抜け殻となってしまったステップワゴンはイフでお預かりすることとなり、もし装着されているリフト装置を必要とする方がいらっしゃればご紹介させていただくことと相成ったのです。
それから少し経ったある日、イフに一本の電話が鳴りその内容は「所有しているハイエースに車いすリフトを後付することがが出来るだろうか?」という相談でした。。。
そこから話はトントン拍子に・・・と、言いたいところですが(笑)
実際にはこの中古リフトの状態説明は勿論のこと、この製品以外の各種リフト装置の比較や車内レイアウトの検討、付帯装置の選定、改造に要する費用面等々、数多くのやり取りをお客様とさせていただきながら、お互いに具現的なイメージを膨らませながら、諸々の検証をするなどしてかなりの時間を費やしました。
結果、相談者であるN様の希望するイメージを再現するためには、この中古品であるステップワゴンのKリフトが最も理にかなう物であるという結論となり、S様から本製品を譲り受けることに相成ったのです♪
そうと決まれば、善は急げです!
合間をみながら、ステップワゴンからリフト装置を取り外し、装置コンディション等の詳細確認です!
使用年数相当の痛みや錆はありますが、全体的には極上品です♪
作動油の漏れなどはないため、埃などを清掃しながら、錆びついていた部分などを補修します。
各部のカバー部品などは塗装の痛みが酷いため、同色でウレタン焼付け塗装を施しリフレッシュ♪
巻き込み防止のカーテンはJIKIの職業用ミシンでしっかり補修しました♪
中古部品で仕入れたハイエースの一人がけ座席も事前に到着し、準備万端です!
下準備の一環として、改造に際しての工程表(日程表)も作成し、お客様の愛車を預かるベストな日取りを確定させていただきました。
この工程表に基づき、息子様の通学等の段取りや、お客様にお手伝いいただく作業などを一目瞭然とし、お互いのやり取りを終始スムーズに行うことが出来ました。
そして・・・いよいよお客様の愛車をお預かりする日がやってきました!
今回のお客様は室蘭市にお住まいの方で、内藤が代車のハイエースに乗ってお客様宅を訪問させていただき、そこで最終確認&検証作業をさせていただいたのです。
お客様宅に持ち込んだ、一人がけ座席や車いす固定装置などを仮置きし、事前の図面だけでは見えてこない部分を隅々までチェックしながら、寸法や位置関係の最終確定をさせていただきました。
そしてついにN様の愛車がイフの工場にピントインです!
車内には、各部の位置関係を記したマスキングテープや留意点メモなどがいっぱいです(笑)
より完成度を高めるべく、息子様の2台ある車いすの内の1台をお預かりしてきちゃいました。
さっそく翌朝から改造作業開始です!
まずは予定の位置にリフト本体を仮置きするところから始まります。
続いて、一人用座席や車いす、車いす固定装置を再び仮置きし、改造の具体的な手法を検討してゆきます。
今回特に重要視したのは、長距離移動の際に息子様が車いすから一人がけ座席へ車内で移乗をするという部分で、その移乗動作はスムーズに行うことが出来るような高さを含めて位置関係を考慮しました。
大まかな雰囲気は掴めたので、一旦リフトを降ろして干渉部分などの加工を行います。
車体側は設置部分のアンダーコートを剥がしながら、床面をフラットに調整していきます。
再びリフトを車載し、次はリフトのアームを伸縮させるなどして各部の干渉をチェックしながら位置の微調整をし、目標位置への固定方法も同時進行で検討していきます。
最優先することは最も使い勝手の良い位置関係を再現することで、それに支障のある部分は次々と加工作業を施してクリアーしていきます。
黄色いマーキングはこれから更に削り落とす部分を記したものです。数値で見るとほんの数ミリですが、ここを除去することで将来リフト装置にガタ等が発生した場合でも、車体と干渉することが無い最低限のクリアランス(隙間)を確保するということが目論見です。
車体下には適材適所にリフト装置を固定するため仕込みを製作していきます。
ところ変わって、こちらは例の中古の一人がけ座席ですが、既にバラバラ事件になっています(笑)
不要な部分は躊躇なく切断して切り捨て、新たなフレームとなる部分を角材を溶接して構築していきます。
こちらもまた、打ち合わせで確定した希望位置に設置するべく、微調整を繰り返します。
目標位置に新たな座席を設置するための取付部分を製作していきます。
お次は、分厚い鉄板を必要寸法に切り出しして・・・
ボール盤にホルソーを装着し、図面に従って穴あけ加工を施します。
周囲をさらに切り出して、成形するとこんな部品が完成です!
これを一人がけ座席の左側に溶接し、新たな足(取付部分)が出来上がりです♪
座席の背もたれを仮取付して、雰囲気をチェック!
リフト装置との位置関係も絶妙な感じでGood!です♪
同時進行で車いす固定装置の取付も行います。
車いす固定装置は、万が一の場合でもその衝撃に耐えられるよう、かなりしっかりした取付金具を製作します。
これらは旋盤で削りだしした鉄製カラー(スペーサー)で、それぞれの装着ポイントに合わせて微妙に寸法が変わっているという、まさに現車合わせオーダーメイドの一品です♪
製作した部品は全てウレタン焼付け塗装を施します。
木戸口チーフメカは、一人がけ座席用の三点シートベルトの加工取付作業を進行中。
ベース車はバンのため、後部にシートベルトを取付出来るようにはなっていないため、こちらも現車に合せてワンオフで取付ブラケット等を製作していきます。
ルーフ(天井)の一部も剥がしながら、肩位置に来るベルトの取付部分を模索します。
シートベルトの部品は全てハイエース・ワゴンのトヨタ純正部品を採用しています。
その純正部品をしっかり取付するためのブラケット(取付金具)は全てオーダメイドで、充分過ぎるほどの強度を確保した部品を製作させえて頂きました。
ルーフトリム(天井カバー)を装着すると見えなくなってしまう部分ですが、このように隠れる部分でも一切の妥協はありません!
ウレタン焼付け塗装、第二弾!
完成した一品物の部品の一部です。
例えばこちらは、一人がけ座席を固定するための部分で、左後輪のタイヤハウスの中に配置します。
白く見えている部分はコーキング剤で、水の侵入による腐食や錆付きを抑制するための必須処理です。
更にその上には“チッピングコート”を数回に分けて塗布し、室蘭の潮風にも耐えるべく配慮させて頂きました。
最終確認のため、座席を組み付けする前に仮取付をして問題ないかどうか最終確認を行います。
車いす固定装置も同様に仮取付をし、後述のマットレス加工に備えます。
リヤクオータートリムには、シートベルトを固定する位置に穴開け加工を施します。
内藤は、ハイエースDX純正のビニール製のフロアカーペットをひくために、各装置との干渉部分をカットしています。
旋盤で削りだしたカラーなどを仕込んで、リフトの本固定の準備も完了!
リフト装置を車体にガッチリ固定するための各種ステー類は全てコーキングを塗った状態で装着します。
上(内藤担当)と下(木戸口担当)の二人三脚でリフト装置の本固定を進行中。
規定トルクで本締めをした各ボルトにはマーキングをして後の緩みが一目瞭然に解るようにしています。
ちなみに、写真赤丸囲みの部分はリフトのベース部分を大きくくり抜いてありますが、ここはハイエースのスペアタイヤを脱着する際にアクセルする必要がある部分となります。
リフト装置を本固定した後は、作動用の電源配線を結線してゆきます。
内藤が先程カットしていた、ハイエースDX純正のビニールマットをひきつめることで、床の汚れを防止します♪
油圧ポンプにはカバーが被され、一人がけ座席やシートベルト、車いす固定装置などが全てを本固定していきます。
プラットフォームを展開した状態。
和光工業のKリフトシリーズは、この動作を手動で行う必要があることから「半自動タイプ」と呼ばれています。
この状態から、プラットフォームを上下昇降させるのは手元のリモコン操作により、電動油圧で行います。
昇降動作を確認しながら、各部の最終調整を行い、ベストな動作状況になるようにセッティングを行います。
その他にも細かい部分ですが、このようなチップスポンジなどを用意して・・・
セカンドシートの背面の中に挿入すると・・・
セカンドシートの背もたれを前倒しした際に、その上に乗ったりしてもフカフカの柔らかい状態になるように細工しました♪
一人がけ座席に装着したシートベルトには、カーメイト製の「シートベルト取って」を装着し、息子様が自ら容易にシートベルトを引き出し出来るように配慮させていただきました。
連日深夜に及んだ改造作業でしたが、ここで全ての作業がようやく完了です!
残る作業は、この改造を施した車両の状態で改造申請を行い【構造変更検査】に合格して、合法的に公道を走ることが出来るように登録するのみです!
各種の改造申請書類を全て準備し、いよいよ帯広陸運支局にて【構造変更検査】を受験します!
まずは1コースにて通常の車検と同じ各種の検査項目を受け、車両の機能に問題が無いか検査します。
帯広陸運支局ではこちらの3コースが改造申請で通るラインで、その順番を待ちます。
3コースでは車体寸法の計測や、改造部分のチェック等々、通常の継続車検には無い検査項目の数々をチェックされるのです。
結果は・・・もちろん?一発合格です! v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
めでたく自動車予備検査証が発行され、これを元にN様の希望ナンバーで再登録するのみとなりました♪
それでは・・・完成したN様仕様のハイエース(車いす移動車登録)をご覧ください。ハイエースの福祉車両といえば、ハイルーフが主流で、N様のように標準ボディ(標準ルーフ)でのリフト装着は珍しいパターンだと思いますが、実はこれがかなり使い勝手が良いのです♪
リフトで乗車した車いすが固定させるすぐ横の位置に一人がけ座席を設置することで、近距離移動は車いすに乗ったままで、中長距離移動は座席に移乗して安楽なドライブを楽しむことが出来るようになりました♪
新たに設置した一人がけ座席と三点式シートベルトです。パット見ただけでは元が「バン」であることがわかりませんね(笑)
元のシートレッグ(取付部分の足)を流用しつつ、左側には新規で製作した(ちょっとレーシーな)頑丈な取り付け部分。
一人がけ座席の設置位置との兼ね合いもあり、意図的に右側に寄せたKリフトは、その左側に空いたスペースから介助する方が車内へ乗り降りすることが可能です。
半自動タイプのKリフトは手すりの開閉やプラットフォーム(リフトの床部分)の展開・可能は手動で行う必要があります。
プラットフォームの上下昇降は、手元の操作リモコン(有線タイプ)にて、電動油圧で行います。
和光工業株式会社様 の車いす昇降用リフト装置で、半自動タイプ「Kシリーズ」はその床面サイズは各種バリエーションがあり、今回装着したものはプラットフォーム全長が1400mmのロングタイプとなっています。
転落防止フラップを手動で開閉し、プラットフォーム上に車いすを移動させます。
Kリフトで車内に乗車する一連の流れをご覧ください。
※一部手動で操作する部分がありますが、こちらの写真には写っていませんことご了承下さい。
車内への車いす移動完了♪ 標準ルーフのハイエースでも余裕の天井高ですよ。
全てが計算されつくした実用的なレイアウトに仕上がりました!
車いす固定装置は中央発條製の「床上式4点ワイヤー固定タイプ(手動式)」で、地元十勝を走る路線バスの多くにもイフで取付させていただいている実績のある製品です。
車いすの座面高と一人がけ座席の座面高に高低差がありますが、これは納車後にN様が所有している(現在お使いの)座位保持カーシートをこの座席の上に乗せてつかうことから、その座位保持カーシートを装着した状態で、車いす座面との落差が無くなるように設定したためなのです。
いかがですか?N様こだわりのハイエース・カスタマイズは!快適性と機能美を併せ持つ、イフ自信の1台です♪
ちなみに、N様は室蘭の方ですが、検診やリハビリ等々で札幌の手稲区にある 北海道立子ども総合医療・療育センター(通称:コドモックル) に定期的に受診されていますが、コドモックルの駐車場は天井高が低いため、ハイエースのハイルーフ(福祉車両)は入ることが出来ませんが、N様の標準ボディハイエース(全高2M)であれば全く問題なく駐車することが可能で、他にもいろいろな天井の制約がある場所にもほとんど気にすることなく、お出かけ出来るのです♪
最後に・・・
先日の構造変更検査を合格して発行された予備検査証にて、室蘭陸運支局でN様の希望ナンバーにて新しいナンバープレートが出来上がり取付しました!室蘭800というのが俗にいう8ナンバー登録で、今回は正規な形で「車いす移動車」登録がなされた証となります♪
N様、長らくお待たせ致しました!ようやく納車準備完了です\(^o^)/
完成したハイエースを納車させていただいてから数日後・・・
「快適に毎日使わせていただいてま〜す」という嬉しいメールとともに、息子様の笑顔の写真をいただきました♪
今回装着させていただいたリフト装置の前オーナーであるS様の使い方を参考に、室蘭市のN様もこのようにテラスにリフトの床部分を乗せる形で車へ移動できるようにされたのです♪
余談ですが、この玄関横に設置されたテラスは、N様のDIYによるものなんですよ!
冒頭でご紹介させていただいた改造工程表には、実はご主人様の作業項目として、テラス製作というのも組み込んであり、イフでの車両改造作業と同時進行で段取りを進めてくださっていたのです(笑)
イフさん、リフトの架装は出来るのですが、テラス製作はN様にはかないませ〜ん(泣)
To be continued・・・
それから5年が経過したある日、N様から連絡があり「リフト装置はとても快調だが、肝心のハイエースがだいぶんボロボロになってきてしまい、エンジン修理代などがかさんできた」「時期ハイエース(300系)を待ちたいが、3年後くらいのようで、それまでは持たないと思われるので、来年くらいに現行ハイエースを購入しようと考えている」「車内のレイアウトなどはそのままでOKなので、装置関係の移設をお願いしたい」という内容の相談をいただきました。