北海道の十勝(とかち)と言えば、ラリージャパン や ラリー北海道 が有名ですが、タイトル写真のド派手なマシンは残念ながらがラリー車ではなく、帯広市の隣町にある芽室町に本社を置く指定自動車教習所「芽室自動車学校 」様(昭和39年6月釧路方面公安委員会指定)の教習車なんです!
話は遡ること数ヶ月前・・・十勝管内にお住まいで、生まれつき下肢に障害があるという方から電話があり「自動車運転免許(普通自動車第一種運転免許)を取得したいが、手動運転装置でなければ運転できなそう」「自営業をしている実家の手伝いをしているが、車の運転をできるようにして、更に仕事の幅を広げたい」という相談をいただきました。
詳しく聞くと、既に1年以上前に帯広運転免許試験場にて運転適性相談(運転適性検査)を受けており「普通車はAT車でアクセル・ブレーキは手動式に限る」という【条件付適格(※1)】という結果をもらっていたそうですが、十勝管内の自動車学校や自動車教習所には手動運転装置付きの教習車が無いことから入校出来ずに困っているとのことでした。
※1:条件付適格とは、運転は可能であるが、運転にあたり、免許の種別や車両の種類・構造の限定や、補装具の使用等の条件を必要とする場合です。自動車の運転に際して車両改造が必要との判断の場合も条件付適格となります。
各所に相談すると【持ち込み教習(※2)】していただくしかないと言われたようですが、具体的にそれを誰に相談してよいのか解らないでいる中で、芽室自動車学校様から「イフさんという福祉車両専門の会社があるので相談してみてはどうか?」というアドバイスをもらい、今回の電話に至ったそうです。
※2:持ち込み教習とは、自分で免許取得前に車両を購入し、その車両で身障者用自動車改造と教習車仕様改造を行い、それを自動車学校に持ち込んで入校する方法です。
相談者のT君は、下肢に障害はあるが車いすや杖は使わずに独歩が可能で、時間は掛かるが階段の昇り降りも可能ということで、入校に伴い、自動車学校の送迎車に乗ることや、エレベーターの無い2階の講習室などへの行き来は問題なくできるようでした。
また、上肢(手や指)に障害はないことから、特殊なタイプの手動運転装置は不要で、スタンダードな手動運転装置で問題なく操作が可能ということも確認できました。
そこで、T君が自動車学校に入校して技能教習を受けるための方法として、次の4つの案をお伝えさせていただきました。
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- 自分で車を購入し、持ち込み教習車に改造して、それを自動車学校に持ち込んで入校する
- 手動運転装置付きの教習車を保有する、十勝管外の自動車学校を選んで入校する
- 自動車学校にお願いして、手動運転装置付き車両を用意してもらう(要相談)
- 簡易的な手動運転装置を自動車学校の教習車に一時的に取り付けさせていだだく(要相談)
1.は、たしかに確実な方法ですが、教習車仕様に改造する費用負担が大きいことや、万が一、何かしらの要因で自動車運転免許が取得できなかった場合のリスクなどが懸念されます。
2.は、極論になるかもしれませんが・・・合宿免許などとも呼ばれる方法で、宿泊施設を有する管外の自動車学校に入校したり、本州の教習所が併設されたリハビリセンターなどに入所する方法ですが、フルタイムで仕事をするT君にはなかなかハードルが高いのも現実です。
3.は、管内の自動車学校に陳情?となりますが、今すぐそれが叶うというのは難しいと考えました。
4.については、恐らくこれまで全国的に前例は無い方法かと思いましたが、弊社で取り扱いのある「901ハンドコントロール(汎用型の手動運転装置)」などを自動車学校様が保有する教習車にT君が入校している期間だけ一時的に取り付けさせていただき、それを使って技能教習を受けるという方法です。
AutoMobility 901 HandControl-System国内外の様々な車種に対応し、世界標準の安全性を持つ、移設可能な手動運転装置「オートモビリティ 901 ハンドコントロールシステム」のご紹介です。
それぞれの案に一長一短はありますが、打ち合せを重ねた結果「案4:簡易的な手動運転装置を自動車学校の教習車に一時的に取り付けて・・・」という方法が理想的として、それが現実的に可能かどうか?これまでも教習車の改造作業などでお付き合いがあり、今回T君に弊社を紹介してくださった「芽室自動車学校 」様に相談したところ、5月過ぎの閑散期であれば対応を前向きに検討したいという嬉しいお言葉をいただきき、入校に向けて各種の確認や段取りなどを進めさせていただくことに相成りました。
この「901ハンドコントロール・システム(汎用型の手動運転装置)」は、カナダのAutoMobility Manufacturing Corporation (オートモビリティ社)が製造し、世界各国で愛用されている製品で、日本ではMOVEAID.,INC.(ムーブエイド・インク)の日本法人が【機会均等の拡大】という理念のもとで、日本車向けに独自のアレンジを加え、満を持して2004年から国内販売を開始し好評を得ており、イフのお客様だけでも100人(台)以上の愛用者がいる定番の手動運転装置です。
ちなみに・・・日本国内には手動運転装置に関する安全基準というものが存在しませんが、901ハンドコントロール・システムは、USA(S.A.E/J1903)や CANADA(C.S.A/3-Z323.1.2)などで規定されているハンドコントロールの安全基準(代表14項目など)に基づき設計製作されており、北米に設立されているNMEDAやNHTSAなどといった政府機関承認の製造者製品ですので品質も安定しており万全です。
また、901ハンドコントロール・システムは “身体障害者用操作装置の部品” として【指定部品(※3)】の扱いとなるため、それを車両に装着したとしても構造等変更検査などの諸手続きは不要なのです。
※3:指定部品とは、自動車使用者の嗜好により、追加、変更等をする蓋然性が高く、安全の確保、公害の防止上支障がないものとされている自動車部品として、「自動車部品を装着した場合の構造等変更検査等における取扱いについて(依命通達)」(平成7年11月16日付け運輸省自動車交通局長通達自技第234号・自整第262号) に規定されており、この部品をボルトや接着剤などで装着する場合は、自動車検査証の記載事項の変更手続を行わなくても良いとされています。
ただし、「指定部品」であっても、これらの自動車部品を装着した自動車は、「道路運送車両の保安基準」に適合するものでなければなりません。
このような製品の概要に加え、T君のお体の状況や趣旨などを芽室自動車学校ならびに公安委員会のご担当者様に説明させていただき、現段階では問題は無いという事前判断をいただくことができましたので、後日、T君と同行して芽室自動車学校様へ入校手続きに伺うこととなりました。
十勝晴れが気持ちのよい8月の某日、イフから車で20分程度の距離にある「芽室自動車学校 」様に、T君の面談を兼ねた入校手続きをするため同行訪問させていただきました。
T君は面談の結果、同校への入校には何ら問題は無いということとなり、そのまま入校手続きが完了!
技能教習にはAT教習車のティーダ7号車に901ハンドコントロール・システムをT君の入校期間だけ取り付けさせていただき、T君専用車として使わせてくださることになりました♪
念のため、教習車のティーダのアクセル&ブレーキまわりの状況も確認させていただきましたが、901ハンドコントロール・システムは問題無く取付可能と判断。
翌週、あたらめて芽室自動車学校様を訪問し、ティーダ7号車を預からせていただきました。
この日産 ティーダ・ラティオの「教習車」は、日産自動車の関連会社である株式会社オーテックジャパンが架装した教習専用車(8ナンバーの路上試験車)で、芽室自動車学校様ではオートマチック教習車として導入し、同校オリジナルの派手なカラーリングが大人気となっているそうです♪
外装の派手さとは裏腹に内装はすっきりシンプルで、技能教習に集中できそうです。
アクセルは最近では一般的になった、スロットル・バイ・ワイヤ(電子制御スロットル)方式で、ブレーキは教習車の補助ブレーキ(助手席に装着されたブレーキ)と連動するリンク機構が付加されていました。
こちらが今回、ティーダ・ラティオ教習車に装着する、新品の901ハンドコントロール・システムです。
イフではレンタカーなどへの一時的な取り付けを希望する方に対応するため、901ハンドコントロール・システムの “レンタル” も行っており、教習期間(運転免許を取得するまでの間)のレンタル貸し出しという方法もありましたが、T君は免許を取得し次第、自分専用のマイカーを購入予定とのことで、予め新品の装置を購入して、それを教習車に取り付けし、教習終了後は、購入したマイカーへ装置一式を移設するという費用面で一番無駄がない方法がとらせていただくことになりました。
と、いうことで、さっそく取り付け作業開始です!
ブレーキブロックやロア・ブレーキアームなどの構成部品を順次取り付けしていきます。
ステアリングコラムにベルトを巻き付ける形でコラム・タワーブロック(装置の位置関係の基準となるポイント)を設置します。
アクセルシャフト、ブレーキシャフト、コントロールアーム、各種ベルト類などを全て取り付けし、装置取付作業が完了です♪
車体側は一切加工することなく、しっかり固定が出来るようなシステムになっています。
作業途中の詳細はかなり端折りましたが(汗)、実際の取り付け作業はもう少し細かな調整などを繰り返しながら行っています。
また、今回のように一時的な取り付けではなく、マイカーなどへの恒久的な取り付けをする場合は、更に各部を現車に合わせて微調整や追加加工等をしながら、より頑丈に、よりすっきりシンプルに仕上げさせていただきます。
こちらが完成した、ティーダ・ラティオの「教習車」+「901ハンドコントロール・システム」の全貌です。
教習車のため、助手席の足元に教官が操作する”補助ブレーキ”が装備されています。
左手で901ハンドコントロール・システムのコントロールレバーを操作(前に押すとブレーキ操作、手前に引くとアクセル操作)するため、残る右手だけでステアリングの旋回操作をすることになるため「ステアリング旋回グリップ」も装着しました。
元のアクセルペダルやブレーキペダルも足で踏める形になっているため、健常者との共有も可能ですが・・・矢張り大なり小なり余計な装備が付加されてしまうことから、他の生徒様との兼用は難しいかと思いますので、今回のように閑散期に専有させていただけるのはとてもありがたいことででした。
いや~、それにしてもこの日産ティーダの教習車はラリーカーみたいで格好いいですね!
901ハンドコントロール・システムの取り付けが完了した後は、芽室自動車学校様へ納車に伺い、同校の教頭と教官に装置の取付状況をご説明した上で、内藤がが手動運転装置を使い教習コースでドライビングを披露させていただきました。
その後、教官にも実際に手動運転装置を使って運転していただき、仮免許技能試験のコースを一巡しながら、検定でも問題ないということを確認することができました。
来週、公安委員会に書類提出(この車両で教習をするという連絡)を入れていただき、いよいよT君の受講が開始となります。
T君、頑張ってくださいね~~~\(^o^)/
▼901ハンドコントロール・システムの詳しい製品情報は、イフ公式ホームページの製品紹介ページ をご覧ください。