とあるパラリンピアン1 からの依頼を受けて、イタリア Aria Wheels の「ULTRA(ウルトラ)」というハイエンドモデルが日本に初上陸しました!
この「ULTRA」は、Aria Wheels を象徴するフラッグシップモデルである「1.0Mg」を更に洗練して、軽さと強さを極限まで追求した最上位モデルで、随所に調整機構を有したマルチアジャスタブル仕様にもかかわらず、トランスポート重量2 は僅か4.8kg3 という驚きの軽量車です。
今回の納車は、お互いの距離がかなり離れているということに加え、オミクロン株が猛威を振るっていることから、リアルに会っての引き渡しはせずに、宅配便でお届けすることになりました。
ここに至るまで1年以上かけて少しずつ打ち合わせを重ね、ULTRAに関する説明や、理想的な寸法や仕様の決定、納車後に調整可能な部位や範囲の確認などを経ていましたが、実際に座ってもらいながらの最終確認や微調整、諸々の補足説明などができないことに不安がないと言えば嘘になります・・・
そこで、ULTRAのセットアップ作業の記録を事細かくブログ記事に掲載し、それをULTRAがお手元に届くまでの間ご覧いただくことで補完しようと考え、本記事を書かせていただきました。
もとい、いつもは LINEやFacebookのアルバム機能などを使って作業記録を報告することが多いのですが、今回は ULTRAが気になっているという日本全国の方の参考にもなるように事例記事とさせていただきました。
ということで、日本に初上陸した Aria Wheels 「ULTRA(ウルトラ)」の開封の儀です。
リジットフレームの車いすが車輪付きで丸ごと入る大きな箱には、緩衝材でぐるぐる巻にされた新車が入っていて、開封後すぐに試乗できる状態になっています。
ULTRAではカスタムカラー扱いとなる「グラファイト・グレー」のフレーム色が、精悍で渋い雰囲気を醸し出しています。
と・・・ うっとり見とれている場合ではありません。
通常、Aria Wheelsは、発注してから約45日程度で完成し、イタリアから日本に向けて出荷されます。
日本までの輸送は航空便のため中一日程度で到着し、成田空港の税関を通過するまで数日間、そこから帯広まで中二日で到着(イタリア→東京より遅い(笑))というのがこれまでのパターンでしたが、今回はコロナ禍に加えてウクライナ情勢などの影響で大幅に遅延しました。
それ故に、急いで各部のチェックや調整作業を施して、一日も早くお届けしようと考えていました。
まずは、座幅のチェックです。指定した座幅(フレームの外々寸法)は 340mmで、固定式のサイドガード(側板)が 5mm外側に装着されるため、サイドガードの内々寸法は[350mm]となっています。
選択した固定式のサイドガードは、フェンダー(泥除け)付きのカーボンファイバー製。フレームと接続するためのサイドガードサポートというパーツは、1.0Mgと2.0Alはアルミ製ですが、ULTRAはカーボンファイバー製となります。
尚、このサイドガードは背パイプ側に固定部分がないため、ある程度柔軟に動く構造になっていますので、「狭くて硬いサイドガードだと大転子部の褥瘡が心配で…」とのことでしたが、ご安心ください♪
逆に、サイドガードにお尻をハメて座位を保持している方や、骨盤の傾きが大きい方、臀部の位置がズレやすいクッションなどをお使いの方はミスマッチとなる可能性がありますのでご注意ください。
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座奥行きは[380mm]で設定。カーボンファイバー製の座面を固定しているネジ部分には長穴になっていて、座面の前後位置を微調整できるようになっています。
今回オプションで選択した「Carbon fibre seat pan with transversal cuts for greater flexion」は、カーボンシートに縦横のスリット(溝)が切られていて、走行中の振動を軽減するタイプです。ガチガチのリジット感が好みの方は標準品(スリット無し)の「Rigid carbon fibre seat pan」をお選びください。
Aria Wheels は最軽量モデルのSpecialを除いた全ての車種で車軸位置の調整が可能です。
今回は[110mm]にセットされていますが、国産車の数値と比較するとそれほど前が浮きやすいということはありませんので、もしキャスター上げがしずらい場合は、CG110→120→130→140 と1段階ずつ車軸位置を前にずらしてみてください。
さらに Aria Wheels の特筆すべきポイントとして、購入後に前後の座面高を一定の範囲で調整(可変)できるということが挙げられます。(Specialを除く)
この表に記されている調整範囲は参考値(目安)で、キャスターのタイプや車輪のサイズ等々で変動しますが、ローフレームとスタンダードフレームでそれぞれ一定の範囲で調整(可変)できるのです。
このローフレームとスタンダードフレームの違いは、メインフレームのサイズに加えて、Axle(車軸の取付部分)に高さの異なる2種類のバリエーションがあり、それらの組み合わせで決まります。(今回のULTRAはローフレームとなっています)
尚、発売当初の Aria Wheels は全て、カーボンファイバー製で衝撃吸収構造を有する「エ型」のAxleが標準で採用されていましたが、現在は「ロ型」のAxleが標準仕様(2.0Alはアルミ製、1.0MgとULTRAはマグネシウム製)となっていて、それ以外のタイプはオプションで選択するように変わっています。
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座面高の調整は、メインフレームとシートプレートをつないでいるシートサポート(L型の部品)の穴位置を変更することで行います。このシートサポートも、1.0Mgと2.0Alはアルミ製ですが、ULTRAはカーボンファイバー製となります。
前座高は[450mm]。シートサポートの調整穴は10mmピッチ(間隔)で、その中央にセットされているため450→460→470 に上げることや、450→440→430 に下げていくことができます。
入荷時の後座高は400mmで、希望寸法は[410mm]のため、一番上がる位置に調整しました。更に上げる場合は座面側にスペーサーなどを挿入する必要がありますが、下げる場合は 410→400→390→380→370mm の5段階に可変させることができます。
後座高が決まった後はバックレストのチェックです。1.0Mgは独自の「Aria® Postural Backrest」が標準仕様に対し、ULTRAは背張り調整式が採用され軽量化が図られています。(オプションでAria® Postural Backrestを選択することもできます)
バックサポート高を計測すると予定より若干高いため、後で調整することにします。
車いすの全長は[685mm]で、当初の計算より△10mmとなりました。
車いすの全幅は、今回特に重要視されたポイントで、今お使いのオーエックスエンジニアリング・LXが総幅500mm(ハンドリム間隔10mm)とのことで、新車はハンドリムの間隔を最小にするなどして、それ以下にしたいという要望がありました。
入荷したULTRAの全幅は[510mm]で、当初の計算より△5mmでした。
さらに全幅を狭くするため、シュワルベ・ライトラン・タイヤを脱がせて、ハンドリムリムを外してリム間隔を加工しようとしたその時です・・・(いやな予感はしたのですが)
想定外のハプニングが発生(発覚)しました(汗)
ULTRAに装着されていた、標準品のアルミ製ハンドリムは、一般的な24インチのハンドリムより一回り大きな直径の製品で、ツメ部分が内側に曲げられている構造でした。
これは、ハンドリムの直径を大きくするすることで初動(漕ぎ始め)を軽くすることを目的としたもので、パンテーラ社製の車いすなどに採用されているものと同じ考え方の製品です。
このツメの形状だと、ハンドリム間隔を更に狭くすることができません。無理矢理曲げることも考えましたが、かなり肉薄の軽量パイプで作られているため、後々のクラックの発生が懸念されます・・・
結果、潔く諦め(慌てて状況を連絡し)、代替案として松永製作所のMPシリーズのアルミ製ハンドリムを部品で取り寄せ、それを使ってセットアップすることにしました。
松永製作所のMP(SPINERGYホイール用)のハンドリムは、リム間隔を調整する穴が3つあり、今回取り寄せしたナロータイプは 5/10/15mmのリム間隔にセットすることができます。
15mmに変更することは無いと判断し、5mmと10mmの穴だけを残してカットしました。
加工後のハンドリムは樹脂製のワッシャーを介してホイールに取り付けし、リム間隔は[5mm]にセットしました。
もし使ってみて5mmでは漕ぎづらいと感じた場合は、全幅との兼ね合いも考慮したうえで、既存のLXと同じ10mmに変更して(広げて)みてください。
タイヤの再組付にあたり、リムテープは元のファブリックテープは廃棄して、新たに「シュワルベ製のハイプレッシャーリムテープ」をセットしました。
新車には標準品の「シュワルベ・ライトラン」が履かれていましたが、ハイエンドモデルのULTRAには、矢張り最高級のタイヤが似合うと思いますので、イフからのプレゼントで「SCHWALBE・ONE(シュワルベ・ワン)」を装着させていただきました。
尚、シュワルベ・ワンはローテーション(進行方向)が決まっているタイヤのため、車輪の着脱の際には左右をお間違えないように。(逆に履いても、車いすの場合は大きな問題はありませんが ww)
カーボンファイバー製のAxleには A7075アルミニウム合金4 で削り出されたプッシュが構造用接着剤5 で接合されていて、この部分は非調整(非分解)となります。
仕上り後の車いすの総幅は・・・[485mm]となり、既存の LXより▲15mmを達成できました!
車輪がバッチリ決まった後は、ブレーキの調整です。
Aria Wheelsの純正品で「Aria® Scissor lock 」というブレーキがありましたが、今回はクイッキーやオットーボックといった海外メーカーの車いすに多く採用されていて日本国内でも部品の入手が容易な、アウトフロント社の「Out-Front Scissor lock 」を採用しました。
また、フレームにブレーキを固定するブレーキサポートは、最軽量は「Carbon fiber support 」でしたが、ブレーキを掛けた時にレバーが外側に飛び出さないのが希望とのことで、フレームにダブルクランプで取り付けする「Aluminium standard clamp 」を採用し、その自由度を活かしてギリギリまで内側にオフセットさせました。
続いて先ほど後回しにしたバックサポートの調整です。背高さの実寸が若干高いためパイプカッターでギリギリの長さにカットしました。
さらに、元々付属していた丸い形のキャップ(パイプエンドの蓋)を平頭に変更して、背高さをミニマムに抑えるように配慮しました。
ただし、座った状態でこの部分に違和感があるようであれば、外した元の部品は同梱しておきますので、変更して(元に戻して)ください。
最後にフット長をチェック! 10mmピッチ(間隔)で調整できるので、予定の[370mm]にセットしました。ここは実際に座っていただき、必要に応じて再調整をお願いします。
じゃーん 完成です!
一見すると、本記事の冒頭で開封後に撮影した写真と何も変わらないように見受けられますが(笑)
そこは深く気にせず、最後の確認作業である・・・ ドキドキのウェイト計測を行いました!
結果は、車輪を付けた状態の総重量で[8.90kg]! 内藤のミスでレッグベルトを付け忘れて計測してしまいましたが、レッグベルトが60gでしたので、それを含めても[8.96kg]に仕上りました♪
こと重量に関して言えば、パンテーラやタイライト、RGKやティグのBUZZなどの完全固定車と比較すると驚くような軽さではありませんが、今回ご紹介したような “随所に調整機構を有したマルチアジャスタブル仕様の車いす” としては最軽量の部類であることは間違いありません。
この ULTRAの各部の調整機構に関して、Aria Wheels の You Tubeチャンネル にて紹介動画がありますので是非ともご覧ください。(内藤の回りくどい長文と違って一目瞭然です(笑))
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また、製品に付属している紙のマニュアル(英語とイタリア語)は、PDFでダウンロードすることもできますので、合わせてご参照ください。
セットアップを終えたULTRAは、丁寧に再梱包をして西濃運輸で発送済みですので、あとは一日も早くお届けできることを願うばかりです。
本来であれば、内藤が持参してお届けしたかったのですが・・・
近い将来、ULTRAを駆って益々アクティブに活動されている様子を伺いに(観光を兼ねて!?)お邪魔したいと考えておりますので、その際は是非ともよろしくお願いいたします。
もとい、その前に納品後のフィッティングについて、しっかりフォローさせていただきますので、引き続きお付き合いください。
最後になりますが、此度のご縁と、遠方よりイフをご用命くださいましたことに心から感謝しながら、完成後に撮影した拙い写真をアップさせていただきますので、ピカピカの新車が届くのを楽しみにしていてください♪