daiさんとの出会い
2014年1月某日、daiさんご夫妻が初めてイフに来店されました。。。
2013年に本州から憧れの北海道に移住してきた同年10月に不慮の事故により障害を負われたとのことで、現在のお体の状況や、退院後の在宅生活で不便なことがいろいろあること、最初に作った車いすがしっくりきていないこと等々の話をじっくりお聞きしました。
その後、鹿追町のご自宅を訪問させていただいたり、中古の福祉車両購入をサポートさせていただいたり、冬の阿寒湖でのワカサギ釣りに参加するためのアイテムをご紹介したり、ご自宅の引っ越しをサポートや、電動車椅子の導入などといった諸々の関わりの中で、daiさんにとってベストな自走タイプの車いすのイメージをお互いに膨らませていきました。
2014年6月某日、daiさんご夫妻に来店していただき、お体の採寸や、車いすの仕様についての細かい打ち合せをしながら、daiさんに合った自走タイプの車いすの購入申請を進めることに相成りました!
この写真 ↑ は、退院時に他社で作ったという車いすに、にこやかに座っているdaiさんですが・・・
座っているというより “乗っかっている” という表現が正しい状態で、体幹筋が全く効かないdaiさんは胸(腹?!)ベルトで無理やり車いすの背もたれに縛り付けられていて、更には両手の甲をアームレストに乗せて体を必死に支えていないと、前にも横もすぐ倒れてしまうような不安定な状態でした(汗)
ちなみに、この日の打ち合わせでdaiさんからの希望は「ちゃんと楽に座れる車いす」という大前提の他に「色は赤黒」「灰皿を設置したい」というのが譲れない条件で「あとは任せます♪」とのことでした(笑)
特例補装具申請
ここから、鹿追町国民健康保険病院の理学療法士である三好先生の全面的なご協力のもと、daiさんに合った車いすの詳細なプランニング作業を一つ一つ検証を重ねながら確定させていき、その仕様が煮詰まった上で、鹿追町に特例補装具としての車椅子の購入申請をさせていただきました。
通常は電動以外の車椅子であれば、医師の意見書により北海道心身障害者総合相談所にて書類のみで審議されるのですが・・・今回は、体重100kgオーバーで、かつ “全身性強直痙攣” を頻発するdaiさんが安楽に使える車いすは基準額の車椅子では到底困難と判断し、特例扱いの補装具として申請したため、北海道心身障害者総合相談所により年4回行われる巡回相談にエントリーし、直接判定を受ける必要がありました。
2015年2月、鹿追町トリムセンターにて、いよいよ巡回相談の日が訪れました。
※スキンヘッドが一変してロン毛になっていますが、同一人物です(笑)
daiさんは、体のいたるところに起爆スイッチ?を内蔵していて、手指や右足などが何かしらに接触してしまうと、局所性痙攣が起こり、そこから全身性強直痙攣が誘発され、呼吸困難になって救急車で緊急搬送されるという厄介な病状の持ち主なのです。
それ故に、右足(慣れた靴下以外は触れると危険!)は常に蹴上した状態を保つことで目視で障害物から避けるようにしているのですが、巡回相談の中で担当相談員が迂闊に右足に触れてしまい、危うく全身性強直痙攣が勃発しそうになり、同席してくださった三好PTの迅速な処置にて事なきを得ることができました(汗)
そんなリアルなハプニングもあってか?daiさんの状況をしっかり理解していただくことが出来(笑)、見積内容の一部は様子見となったものの、基本的な部分は特例として全て認めていただけることになったのです♪
Quickie2(クイッキー2)
鹿追町から晴れて交付券(交付決定通知)が届いた後、最終打ち合わせで確定した車いすや付帯部品を全て発注し、2015年8月・・・ついにdaiさんの車いすなどがイフに入荷してきました!
今回、daiさんの車いすのベース車として選択したのは、サンライズメディカル(Sunrise Medical)社 製のモジュラー型車いすの王道である「クイッキー2(Quickie2)」です!
「クイッキー2(Quickie2)」は業界で25年以上も親しまれた折りたたみ車いすの進化版で、モジュラー型のデザインやパーツ構成は64,000通りを超える組み合わせが可能なことから、ユーザーの症状や状態に合わせた自分専用のシーティングを実感できます。
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daiさん用にチョイスしたクイッキー2の基本構成は「ヘビー・デューティ・パッケージ」と呼ばれるもので、その許容耐荷重はなんと150kgまで対応可能な強者なのです!!
とはいえ・・・クイッキー2はあくまでベースの車いすであり、基本的な寸法や各部品はdaiさんに合わせて事細かくオーダーしていますが、それをそのまま納車できるような完成品としては入荷してきません、、、
そのため、ここからイフさんの腕の見せどころが始まるのです! v(≧∇≦)v イェェ~イ♪
セットアップ作業
まずはいきなり、装着されていた(今回発注時に選択した)「5インチ・ソフトロール・キャスター車輪&マルチポジション・フォーク」をフレームから取り外してしまいます。
左右の足台との兼ね合いを見据え、最適な位置や高さ、キャスター角度になるように微調整をしながら、車いすのフレームに再取付を行います。
前述の通り、右足は常に蹴上(挙上)させて目視で安全を確認できるように「高機能エレベーティングレッグサポート」を部品として別に準備し、それを取り付けしていきます。
唯一(多少)自由の効く左足は、踏ん張りが効くように「直下型(90°)・開閉・着脱式フロントマウントレッグサポート」を装着すべく、フレーム本体に加工を施します。
レッグサポートの延長ポストを、旋盤などの加工機械を使い、最適な長さと形状に加工していきます。
直下型(90°)・開閉・着脱式フロントマウントレッグサポートには「アルミニウム・フットプレート」を装着して最適な位置関係を実現すると同時に、キャスター車輪との干渉が起こらないようにそれぞれを配置しました。
長時間の安定した座位保持に欠かせない要素の一つとなるクッションは「JAYフュージョンクッション(流動体インサート+ストレッチカバー仕様)」をチョイス!
背シートは一枚物の布は論外で、一般的な張り調整式や、後付の体幹サポートなどではdaiさんの安定した体幹保持は難しいと考え、ハードシェル構造である「JAY3ディープバッグ 」を採用しました!
実は、ここにもこだわりのポイントがありまして・・・
今回daiさん用に取り寄せしたこの「JAY3のディープバッグ」の形状は、本来は日本国内には正規で流通していない[J3PDUTM##SH]というタイプであり、側面のサポート部分がdaiさんの最も支えが必要な部分に位置するようになっている形状の製品なのです!
JAY3バッグを車いすのバックポストに装着するための金具は「4ポイント(4箇所固定)」タイプを採用し、万が一の全身性強直痙攣にも耐えうる頑丈なものとし、更に「延長タイプ」にすることで取り付けの自由度をアップさせました。
JAY3バッグをクイッキー2に取付し、daiさんの体に合わせた位置にざっくり調整した状態です。(写真はクッション部分を取り外してハードシェル部分だけにした状態)
ベルト類は「Bodypoint(ボディポイント)社 」の製品をチョイス!
体幹の安定には胸郭サポートハーネスのスタンダードタイプである「Hスタイルハーネス」を採用。
腰部は、骨盤をしっかり固定しながらその位置を任意にコントロールすることが出来る「フォーポイント骨盤ベルト」を採用し、それぞれをdaiさんに合わせた最適な位置に仮装着していきます。
仮合わせ
一通りの周辺パーツなどを仮組付けした後、daiさんに連絡して、仮合わせのためにイフにご足労いただきました。
それぞれにケースに応じて、お客さま宅やリハ室などへ出向くことも多いのですが、今回はdaiさんの一日も早く納車を!という要望があり、イフにお越しいただくことで、その場で加工などをしながらより迅速&的確にフィッティング作業が出来るということでイフにご来店いただくことになったのです♪
JAY3バッグの角度や高さ、前後位置関係を調整し、ベルト部品を的確に合わせていくと・・・あら不思議?! daiさんがしっかり座っているではありませんか(笑)
それまでは、車いす上でバンザイ(両手上げ)など、間違っても出来ませんでしたが、新しい車いすがそれが難なく出来ることにdaiさん自身がビックリ驚くと同時に、笑顔(ドヤ顔)が溢れました♪
安定した座位姿勢をとることが出来た後は、実走行をチェック!
「あれ?! 俺・・・車いすを漕げている」という言葉には皆で大笑いしました。
正確に言うと、これまでも車いすを自力で漕ぐ動作は多少は出来ていましたが、現実的な駆動力には程遠く、数ミリ程度の段差や僅かな勾配でもギブアップして介助者に押してもらっている状態でしたが、新しい車いすは、それらが全て解消され、バリバリとまでは行かずとも、最低限の車いすの自力駆動は自由自在に出来るようになった感じでした♪
最終仕上げ
daiさんが帰られた後、最終仕上げをするべくクイッキー2を再びバラバラ状態に・・・
Hスタイルハーネスの「ガイドブラケット」の位置をモアベストな位置にするべく、小加工をして調整完了!
Hスタイルハーネス自体もベルト部分をJUKIミシンで細工をして、より使いやすく改良!
パッド付きスイングアウェイ・アームレストは、不用意に(簡単に)抜けてしまわないように、独自のロック機構を追加装着しました!
今回クイッキー2発注時に選択した「ハイ・プル・ホイールロック(カーブタイプ)+6インチ延長ハンドル」は、ブレーキを掛けない状態で、かなり前に倒れすぎてしまい、daiさんがそれを戻す(ブレーキを掛ける)ためには、体を前倒しする必要があり、とても不安定になることから・・・
適度な位置でブレーキレバーの角度がストップするように改良(改造)しました♪
高機能エレベーティングレッグサポートのパッド部分は、daiさんの足の重さや発作時の荷重に耐えられるように追加の補強をしっかり施しました!
常に蹴上(挙上)させている右足が乗るパッド部分には、先程の補強に加え、表面部分に30mm厚の低反発素材を挿入し、超ふかふか仕上げとしました!
改良を施したこのレッグパッドは、内藤が自分の枕にしたいと思うほど、Goodな感じに仕上がりました♪
左足の直下型・開閉・着脱式フロントマウントレッグサポートには、ソフトタイプのインパクトガードを装着して足の当たりが和らぐように配慮しました!
最後に、地元の社協を始めとした不特定多数の福祉車両に車いすのまま乗車することを想定し、固定用フックを掛ける位置を前後左右の4箇所にマーキングして、不用意に間違った場所で固縛されることを未然に防ぐような配慮させていただきました。
これらの他にも様々な細かな追加&仕上げ作業をさせていただき・・・
じゃ〜ん!完成です♪
最後に・・・「灰皿を設置したい」というdaiさんの譲れない条件をクリアーすべく、伸縮式のポールを車いすに加工取付し、その先端に松永製作所のドリンクホルダーを配置し、そこに携帯灰皿を常備できるようにさせていただきました!
待望の納車
完成した翌朝、少しでも早くdaiさんの喜ぶ顔を見たくて、一路 daiさん宅のある鹿追町に一目散でクルマを走らせました!
そこには、新車の到着を首を長〜くして(外で)待つ、daiさんご夫妻の姿がありました(笑)
さっそく試乗していただき、まずはラジオ体操を…(笑)、、、じゃなくて、バンザイ(両手を上げる)の動きを確認し問題なくOK!その他の部分も全てOKで一安心しました。。。
今回、とても印象に残ったdaiさんとのやり取りの一場面がありました。
daiさんが新しい車いすに座りながら、何気に「あれ?俺?呼吸が普通にできるぞ?」と呟いたのです。
これまでずっと、自分が呼吸が上手く出来ないのは自身の障害のせいだと思っていたらしく、それが新しい車いすでは普通に呼吸が出来ているという驚きが、何気ない一言として発せられたのです。。。
このdaiさんのとびっきり素敵な笑顔が、大成功の証ですね。。。
daiさんとの関わりの中で、車いすのこと以外にも、いろいろなことを数多く学ばせていただくことができました♪
この出逢いに、心から感謝しております。。。
SMILE FOR TECHNOL…(技術は、笑顔のために…)
私たちはお客様の笑顔が大好きです。
お客様の笑顔を見るために仕事をしていると言っても過言ではありません。
そのために、私たちの培ってきた技術やノウハウを惜しみなく提供し「イフと出会えて良かった♪」と喜んでいただけるように、私たちは、日々ちょっとずつ成長していきます。
昨日よりも今日、今日よりも明日。その笑顔の「輪」がどんどん広がることを願って。。。
(2018.9.26 追記)
daiさんからのメッセージ
このブログ記事が書き上がり、さっそくdaiさんにご紹介したところ、嬉し恥ずかしくも、超嬉しいメッセージを頂戴しましたので、僭越ながら、こちらに転載させていただきます。
本当にオンリーワンの一品。。。
メッチャ手間隙かけて、私のADLやQOLを向上して頂いていることを、改めて感謝です。
それまでは「車椅子なんて、どれも変わらない」と考えておりました。
しかし、大きな事では重量やタイヤサイズ。
そして、そこからは、内藤マジック。
座れるクッションや背もたれ、漕げる位置のタイヤ。
足挙上の台や、体幹固定方法。さらには、灰皿まで!
本当に、何から何まで、ありがとうございます♪
考えて、図面をつくり、試作して、合わせて、、、
言葉にすると、とても簡単なことになってしまいますが、たくさんの経験と知識、そして技術があってこそのたまものですよね。素晴らしいです。
車椅子で自由に動けるようになり、たくさんの仲間との交流が可能となり、内藤さんから紹介して頂くすべての人との出会いが、私にとっては宝です。
本当に、ありがとうございます。